上海ロケ 後記
空港を降り街までをリニアモーターカーで移動する。
最高時速431km/hで30kmの道のりをわずか7分。この短い距離をものすごいスピードで移動したいと考えるところに、ここ上海人の気質がうかがえる。道は車、自転車、バイク人に満ち溢れ、無秩序にそれぞれが、それぞれのスピードで先を競い合って流れて行く。そして当たり前のようにクラクションや、自転車のベルの騒音に包まれている。せっかちで、自己主張の強いと言われる上海人。納得である。
街の中心部では新しい高層ビルディングが立ち並ぶ。建設中のビルも多く目に付く。そして古い住居群を壊し土地を広げている。まさに開発の最中だ。経済の加速が街を瞬時に一変させていく。ビル街に取り囲まれた古いアパートからの眺めはそのまま経済格差を見て取ることができる。
上海に着いて最初の一週間は、虹口区にあるホテルに宿泊した。ホテルの前の道は路上市場となっており、野菜、果物、蟹、といったいろいろな食材が所狭しと並べられていた。屋台では、揚げパンや、焼き鳥のようなもの、饅頭も売られている。朝早くから夕方遅くまで人通りが途絶えることもなく、窓を開ければ眼下の喧騒がホテルの部屋まで飛び込んでくる。
この、虹口区は、まだ開発があまり進んでいない下町。近くには大きなサッカー場。その隣には魯迅の墓所と記念館を併設した大きな公園もある。古くに日本租界もここにあった。
このホテルを基点に上海を撮影してみて回ると自分の位置が下町目線になる。今年の夏にオープンした世界一の高さを誇る上海ヒルズにも登ってみた。そこからの眺めもすばらしかったが、大きなさら地の中に、取り残された家がいくつか見えた。街が移り変わる物悲しさも同時に沸いてくる。
夕食を摂りに町を徘徊すると、中国ならではの交通ルールに戸惑う。車は右側通行で、右折に限り常時通行可能ということなのだが、その右折車のスピードがものすごく速いのだ。信号が変わり迂闊に道に出てしまえば、命を危険にさらすほど。横断歩道を渡っている人々を遠くからクラクションで威嚇しながら次々と車列が通り過ぎていく。人はその切れ間を縫うように横断しなければならない。車を運転するものたちは、車を持つことが出来た人間の特権のように当たり前のように乱暴な運転をする。そして道を歩く人々に対してやさしさのかけらもまるで感じられない。
自由経済、自由社会というものは力が強いものだけが金に物を言わせ特権を持つ世界なのか。世界進出を成功させた大きな企業が世界中に同じ街を作り上げようとしているかのようだ。マクドナルド、KFC、などのファストフードショップがいくつも点在し、24時間の日本のコンビにも夜遅くまでこうこうと営業している。高層ビル、高級ブランド、高級車、そういったものを購買するだけの力をつけた者たちが誇らしげに住む新しい高級住宅街。そして、われわれが泊まるホテルの周りのように、一束何元かの野菜を売って暮らす人々。この町の底辺から這い上がるには相当の努力が必要になることが容易に想像できる。
しかし、1週間後。上海に住む日本人の方と何日か過ごすうちに、自分の立ち位置が変化していることに気づく。一般的な現地の人々よりも裕福な日本人と食事を重ねるうちに、貧しい人々の暮らす町から遠ざかってしまった。経済発展している上海の表の世界に圧倒されながらそれを受け入れその暮らしやすさにすぐに馴染んでしまう。自分自身の変わり身の早さに驚くばかりだ。一般的に月収が5000元(日本円で75000円)といわれているが、実際には稼いでいる人はこの数百倍、貧しい人はこの半分以下というのが実情なのだろう。
行き届いたサービスなど最初から期待していなかったのだが、ちゃんとしたサービスを受けると、もと居た場所で過ごすことが苦痛になる。日本食レストランで食事を摂る回数が増えると、メニューもスタッフも日本語でやり取りできるものだから楽でよい。しかし、ローカルのレストランに入る回数が極端に減ってきたし、その中でも、小さなレストランは敬遠するようになってしまった。旅の楽しさは本来ローカルの中にある。うまくいったり、失敗したり、発見したりといった経験が旅を豊かにしてくれるのだが、それをどこかで閉ざしてしまった。
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